ハラスメントよりも深刻なインシビリティという問題
「なんとなく嫌だ」が生まれる職場
明らかな暴言や嫌がらせがあるわけではない。業務上の問題が起きているとも言い切れない。それでも、何かが引っかかる。
「あの人と仕事をすると、なんとなく疲れる」
「何かをされたわけではないけれど、居心地が悪い」
「悪い人ではないのだけれど、どうも苦手だ」
職場で、このような感覚を抱いた経験はないでしょうか。
こうした違和感は、「人間関係の問題」「相性の問題」「受け取り方の個人差」として片づけられがちです。
しかし、その小さな違和感が積み重なることで、職場の雰囲気や人間関係、さらには組織文化そのものに影響を及ぼしているとしたら、どうでしょうか。
今回は、組織づくりにおいて見過ごすことのできない「インシビリティ(Incivility)」について考えてみたいと思います。
インシビリティとは何か
インシビリティとは、相手に対する敬意や配慮を欠いた言動のことです。
職場におけるインシビリティは、相手を傷つける意図が明確ではないものの、互いを尊重する規範に反する、比較的軽度な言動として研究されています。
例えば、
✓ 挨拶を返さない
✓ 話を遮る
✓ 相手によって態度を変える
✓ 発言を軽く扱う
✓ 人前でため息をつく
✓ 特定の人の意見には反応しない
一つひとつを取り上げれば、些細なことに見えるかもしれません。
→ 忙しかっただけかもしれない。
→ 本人に悪気はなかったのかもしれない。
→ 単なる癖かもしれない。
ところが、受け取る側には小さな不快感が残ります。
そして、その不快感は必ずしも言葉になるとは限りません。
問題は、何が起きたのかを明確に説明できないまま、何かが少しずつ失われていくことです。
ハラスメントよりも深刻なのか
ハラスメントは、企業にとって重要な経営課題です。
防止措置や相談体制の整備など、企業には具体的な対応が求められています。
もちろん、ハラスメントには重大な人権侵害につながるものもあり、インシビリティの方が常に深刻だということではありません。
しかし、組織文化への影響という観点では、インシビリティには別の難しさがあります。
それは、問題として認識されにくいことです。
「そのくらいは仕方ない」--?
「人によって感じ方は違う」--?
「いろいろな性格の人がいるのだから」--?
「多様性を尊重することも必要でしょう」--?
こうした言葉で、問題が曖昧なまま処理されてしまうことがあります。
もちろん、人によって価値観や感じ方が異なるのは当然です。
しかし、多様性を尊重することと、他者への敬意を欠いた言動を容認することは、同じではありません。
ここを混同してしまうと、組織は小さな問題を見過ごし続けることになります。
明確な違反行為であれば、注意や指導、制度による対応が可能です。
一方、インシビリティは、何をどこまで問題とするのか、その線引き自体が難しい。
だからこそ、本格的な対処や組織的なてこ入れが後回しになりやすいのです。
組織文化は、日常の小さな言動からつくられる
組織文化というと、経営理念や行動指針、制度、社内の取り組みなどを思い浮かべるかもしれません。
しかし、組織文化は、それらを整備するだけで形成されるものではありません。
・日々、社員同士がどのように関わっているのか。
・誰かが発言したとき、周囲はどのような反応を示すのか。
・意見が異なったとき、どのような態度をとるのか。
・忙しいとき、立場の弱い相手にどのように接するのか。
こうした日常の小さな言動の積み重ねが、その組織らしさをつくっていきます。
例えば、会議で意見を述べた社員に対して、上司が面倒そうな表情を見せたとします。
上司に悪意はなかったかもしれません。
しかし、その表情を見た社員が、次から発言を控えるようになったとしたら。
さらに、周囲の社員も同じように発言を控えるようになったとしたら。
そこには、明確なハラスメントが存在しなくても、組織にとって大きな損失が生まれています。
社員の主体性がないのではなく、主体性を発揮しにくい環境がつくられているのかもしれません。
そして厄介なのは、こうした変化が目に見える問題として表面化しにくいことです。
人間関係が明らかに悪化するよりも前に、社員の意欲や関心、組織への信頼が静かに失われていく。
私は、ここにインシビリティの大きな問題があると考えています。
ルールだけでは解決できない領域
企業では、ハラスメント防止研修やコンプライアンス教育が実施されています。
何をしてはいけないのか。どのような言動が問題になるのか。
こうした知識を身につけることは、もちろん重要です。
しかし、知識があることと、日常の言動が変わることは別の問題です。
「ハラスメントに該当しなければ問題ない」
「規則には違反していない」
そのような判断だけで、本当に品格ある組織がつくられるでしょうか。
インシビリティは、ルールを増やすだけでは解決しにくい領域です。
なぜなら、私たちの言動には、その人が大切にしているものや、これまでの経験、習慣、感情など、さまざまな背景が関わっているからです。
ここで重要になるのが、「自分を知る」ということです。
自分は、どのような場面で不機嫌になるのか。
どのような相手に対して、態度が変わりやすいのか。
自分では当たり前だと思っている振る舞いが、他者にはどのように伝わっているのか。
そして、自分はどのような人間でありたいのか。
他者への敬意は、単なるマナーの問題ではありません。
自分自身のあり方を問うことでもあるのです。
美意識経営™が大切にする「判断の質」
JK22コンサルティングが提唱する美意識経営™では、価値観、コンテキスト、美意識を次のように捉えています。
価値観は、その人が大切にしているもの。
コンテキストは、その人の判断や言動を生み出している背景。
美意識は、その背景を持つ自分が、何を良しとし、何を選ぶのか。その判断の質に関わるもの。
人は、それぞれ異なる価値観や背景を持っています。
だからこそ、同じ出来事に対しても、感じ方や受け止め方が異なります。
その違いを理解することは大切です。
しかし、違いがあるから仕方ない、というところで思考を止めてしまっては、組織は成熟しません。
自分と異なる考え方を持つ人に、どのような態度で接するのか。
不快な感情を抱いたとき、その感情をどのように扱うのか。
自分の立場や権限を、どのように使うのか。
そこには、一人ひとりの判断があります。
「してはいけないから、しない」のではなく、「自分は、そのような振る舞いを選ばない」。
この違いは、とても大きいと思います。
美意識経営™が目指しているのは、誰もが同じ価値観や振る舞いを持つ組織ではありません。
それぞれの違いを持ちながら、自分の判断と言動に責任を持ち、互いに尊重し合える組織です。
シビリティが育つ組織へ
インシビリティの対になる言葉に、シビリティ(Civility)があります。
シビリティとは、他者への敬意や配慮を持ち、尊重し合う姿勢を意味します。
ただし、誰に対しても愛想よく振る舞うことや、意見の対立を避けることではありません。
異なる意見を持つことも、反対意見を述べることも、組織には必要です。
大切なのは、そのとき相手の人格や存在を軽んじないことです。
私は、シビリティを単なる礼儀作法ではなく、組織の成熟度を表す一つの要素として捉えています。
インシビリティをなくすことだけを目的にするのではなく、シビリティが自然に育つ組織をつくる。
そのためには、経営者や管理職の姿勢が重要であることはもちろん、社員一人ひとりが、自分自身の言動を見つめる機会も必要です。
そして、個人の心がけだけに委ねるのではなく、敬意ある言動が大切にされる職場環境を、組織としてつくっていかなければなりません。
組織の品格は、誰も見ていないところに表れる
組織の品格は、立派な経営理念や美しい言葉だけでは測れません。
・誰も見ていないところで、どのような態度をとるのか。
・自分に利益をもたらさない相手に、どのように接するのか。
・意見が合わない相手に、どのような言葉を選ぶのか。
そうした小さな選択の積み重ねにこそ、その組織の本当の姿が表れるのではないでしょうか。
インシビリティは、曖昧で、見えにくく、対処の難しい問題です。
だからこそ、制度やルールだけではなく、一人ひとりの美意識が求められます。
組織文化は、誰かが決めた言葉ではなく、そこにいる人たちが日々選んでいる言動によってつくられていく。
美意識経営™は、その一つひとつの選択に目を向けます。
人と組織の営みを洗練する。
その第一歩は、自分自身の何気ない言動に気づくことから始まるのかもしれません。
JK22コンサルティング
美意識経営™|人と組織の営みを洗練する。
JK22 Consulting
美意識経営™ ― 未来が描ける会社のために。
美意識経営™について、特設ページでご紹介しています。
